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子どもの野球肘・肩の放置リスクは?受診目安と初期サインを解説

2026年8月23日
子どもの野球肘・肩の放置リスクは?受診目安と初期サインを解説

「大丈夫」と言う子どもの肘、そのまま様子を見ていて良いのでしょうか


練習のあとにそっと肘をさすっている、投げ方が少し変わった気がする——それでも本人は「平気」と言う。成長痛だろうと様子を見ているうちに、成長軟骨へ負担が積み重なることもあります。この記事では、家庭で確認したい初期サインと、受診を検討する目安を整形外科の視点で整理しました。


この記事の要点まとめ


  • 成長期の肘・肩は骨端線への負担が蓄積しやすく、痛みが軽くても注意が必要です
  • フォームの変化や動作のかばいなど、家庭で気づける初期サインを紹介します
  • 日常生活での痛みや腫れがある場合は、練習を中断し早めの相談が検討されます

成長期の子どもの野球肘・野球肩を放置するリスクとは?


成長期の骨には、骨端線(成長軟骨)と呼ばれる軟らかい部分があります。身長がぐんと伸びる時期は、骨の成長スピードに筋肉や腱の柔軟性が追いつかず、関節まわりへ負担が集まりやすいとされています。投球動作は肘や肩に強いストレスがかかるため、成長期の骨端線は大人の関節とは異なる弱点を抱えていると知っておきたいところです1


「成長痛」との誤解が招く成長軟骨(骨端線)への影響


いわゆる成長痛は、夕方から夜間に下肢へ出ることが多く、翌朝にはけろりと落ち着いているのが一般的といわれます。これに対して野球肘や野球肩は、投球という特定の動作に結びついて痛みが出る点が特徴です。投げると痛い、球数が増えるほど痛む——こうした訴えは、成長痛とは切り分けて考えたいところ。


オーバーユース(投げすぎ)が続くと、肘の内側では靭帯や腱の付着部が引っ張られ、骨端線が離れてしまうことがあります。外側では骨と軟骨の一部が傷む離断性骨軟骨炎が生じる場合があり、後方では肘頭付近に負担が集まります。野球肘は内側型・外側型・後方型に分けて考えますが、なかでも外側型は初期に痛みが乏しく、気づかれにくい点に注意が必要です。


痛みを我慢して投げ続けることで生じる長期離脱と機能障害


初期のうちに投球を休められれば、比較的短い期間で経過をみていけることもあります。一方、進行してから見つかった場合には、投球休止の期間が数か月から半年以上に及ぶことも珍しくありません。早く見つかるほど、休む期間が短く済む可能性があるというのが診療の場での実感です。


また、肘の曲げ伸ばしの制限や、肩の腱板・関節唇への負担が残ると、競技を離れた後の日常生活に影響する場合もあります。「大会に間に合わせたい」という気持ちはごく自然なもの。ただ、目の前の一試合と、これから何十年も使っていく関節、その両方を見比べたうえで判断していただければと考えています1


見逃しやすい初期サインと家庭でできるセルフチェック

見逃しやすい初期サインと家庭でできるセルフチェック

野球肘・野球肩の初期は、痛みが軽く、投げ終わってしばらくすると消えてしまうこともよくあります。だからこそ、痛みの訴えそのものよりも「動作の変化」に目を向けることが、早めの気づきにつながります。


子どもが痛みを隠す心理と保護者が気づくべき動作の異変


小学生でも「レギュラー選考に響くのでは」「監督に申し訳ない」といった思いから、痛みを口に出さないことがあります。当院を受診されるお子さんでも、保護者の方が付き添って初めて「実は数週間前から痛かった」と打ち明けてくれるケースを経験してきました。「痛い?」と聞くよりも、「投げていて、いつもと違う感じはある?」と尋ねたほうが本音を話しやすいようです。


観察したいポイントを挙げてみます。


  • 投球フォームの変化:肘が下がる、体が早く開く、球速や制球が急に乱れる
  • 投球後の仕草:腕をだらりと下げる、肘や肩をさする、アイシングを長時間続ける
  • 日常動作:食事で箸を持つ腕をかばう、リュックを片側だけで背負う、着替えに時間がかかる
  • 練習への態度:キャッチボールを避けたがる、遠投を嫌がる

指導者と保護者が同じ視点を共有しておくと、無理をさせない環境をつくりやすくなります。


肘の曲げ伸ばしや肩の可動域を確認するチェック項目


家庭で見るときは、左右差を手がかりにするのが基本です。


1. 両腕を前にまっすぐ伸ばし、手のひらを上に向けたとき、投げる側だけ肘が伸びきらないか

2. 両手を肩に触れるように深く曲げたとき、左右で曲がり方に差がないか

3. 肘の内側・外側・後方を軽く押したとき、片側だけ痛がる場所がないか

4. 両腕を真上に挙げる、背中で手を組むといった動作で、肩の動きに差がないか


左右差がある、押して痛む箇所がはっきりしている——そんなときは、投球を一度休めてご相談いただきたい段階とお考えください。無理に動かして確かめる必要はありません1


整形外科を受診すべき目安と詳しい画像検査の流れ


判断に迷ったときは、「投球以外でも症状が出ているかどうか」を一つの分かれ目にすると整理しやすくなります。


すぐに練習を中断して受診を検討すべき注意が必要なサイン


次に当てはまる場合は、練習を続けずに医療機関でご相談ください。


  • 投球中だけでなく、日常生活の動作でも痛みが出る
  • 肘や肩が腫れている、熱っぽい
  • 肘が最後まで伸びない、または曲がりきらない
  • 投げた瞬間に引っかかる感じ、ロッキング(急に動かなくなる)がある
  • 数週間休んでも、投げ始めると同じ場所が痛む

痛みが軽くても、繰り返すようなら経過を確認しておきたいところ。成長期の投球障害は自覚症状が乏しいまま進むこともあるため、シーズン前後の運動器検診を活用する考え方も広がっています1


1.5テスラMRIやエコー・レントゲンによる病態の早期評価


診察では、痛む部位の触診と可動域の確認から始め、必要に応じてレントゲン撮影で骨端線や骨の状態をみていきます。超音波診断装置(エコー検査)は被ばくがなく、その場で左右を見ながら軟骨表面や腱の状態を観察できるため、成長期のお子さんの評価で手がかりになります。


さらに詳しい評価が必要と判断した場合には、当院に設置している1.5テスラMRI装置を用いて、レントゲンでは捉えにくい軟骨や骨内部の変化、腱・靭帯の状態を確認します。当院では整形外科として、こうした検査結果をもとに、投球休止の期間、リハビリテーションの内容、フォームや練習量の見直しまで含めて一緒に計画を立てる方針をとっています。


復帰までの流れは病態や進行度によって大きく変わります。ただ、休止期間中も下半身や体幹のトレーニング、肩甲骨まわりの可動性を高める運動など、取り組めることは少なくありません。「休む=何もしない」ではなく、復帰へ向けた準備期間として過ごす——その視点を保護者の方と共有できればと考えています1


よくある質問


Q1. 野球肘をそのままにしておくとどうなりますか?


A. 経過には個人差がありますが、痛みをこらえて投球を続けると、成長軟骨や骨・軟骨への負担が積み重なることがあります。その結果、投球を休む期間が長くなったり、肘の曲げ伸ばしに制限が残ったりする場合も。早い段階で状態を把握しておくことが、その後の選択肢を広げます。


Q2. 小学生の野球肘は、投球再開までにどのくらいかかりますか?


A. 病態(内側型・外側型・後方型)や進行度、年齢によって幅があります。ごく初期であれば数週間の投球休止と段階的な復帰プログラムで経過をみることもありますが、離断性骨軟骨炎などでは数か月以上の休止を要する場合もあります。画像検査の結果を踏まえ、個別に見通しをお伝えしています。


Q3. 野球肩はどのくらいの期間で投げられるようになりますか?


A. 肩も同じく、原因となっている部位や損傷の程度で幅が出ます。フォームの見直しや肩甲骨・体幹の機能を整えるリハビリテーションを並行することが多く、痛みが治まった時点ですぐ全力投球に戻すのではなく、段階を踏んで負荷を上げていく流れが一般的です。


Q4. 野球で多いけがにはどのようなものがありますか?


A. 投球動作の繰り返しによる肘・肩の障害(いわゆる野球肘・野球肩)、腰の疲労性の障害、走塁や守備中の足首・膝のけがなどが挙げられます。なかでも成長期は、繰り返しの負担によるスポーツ障害の割合が高い傾向にあるとされています。


Q5. 痛みがなければ受診しなくても良いでしょうか?


A. 外側型の野球肘のように、初期は痛みが乏しいこともあります。投球数が多い、シーズンを通して投げ続けている、左右差を感じる——そうした場合は、症状がなくても一度確認しておくと状態を把握しやすくなります。


参考文献


1. 厚生労働省「健康づくりサポートネット(疾病・健康に関する情報)」 https://kennet.mhlw.go.jp/information/


渡邊 裕規

医師


わたなべ整形外科運動器クリニック

院長

渡邊 裕規

▶ 監修者プロフィール

経歴
1999年 富山大学医学部卒業 富山大学附属病院整形外科 研修医
2000年 富山労災病院 整形外科 医員
2002年 長野県厚生連 長野松代総合病院 整形外科 医員
2003年 愛知医科大学 分子医科学研究所 研究員
2007年 富山大学大学院医学系研究科修了(医学博士) 
2009年 黒部市民病院 整形外科 医員
2010年 富山労災病院 整形外科 副部長
2012年 はちや整形外科病院 医局長、関節スポーツ部門担当および人工関節チーフドクター
2014年 豪シドニー臨床留学 (フェロー6ヵ月間)
2018年 名古屋市名東区にてわたなべ整形外科運動器クリニック開院
2021年 医療法人WOMSC設立
資格・所属学会
【学位・資格】
医学博士
日本整形外科学会認定
整形外科専門医 リウマチ医
日本リハビリテーション医学会
認定臨床医
日本体育協会 スポーツドクター
【所属学会】
日本整形外科学会
日本人工関節学会
日本関節鏡・膝・スポーツ整形外科学会(JOSKAS)
日本リハビリテーション医学会
日本股関節学会
日本リウマチ学会
東海関節外科研究会 世話人